青色の向こう #1(メタバース連載小説)

葵シュセツ

『何色でもいい』

「別れが選択肢に入っている話し合いなんて意味ないわ。別れましょう」

そう言って彼女は去って行った。

「何なんだよ、もう!」

ヘッドセットをもぎ取り僕はため息をついた。

付き合い始めて半年。最初で最後の喧嘩になった。

僕の言った「別れ」とは、僕が振られるかもしれないと言う意味だった。決してこっちから別れる気なんて無かった。ただ振られるのが怖くて別れることになるかもしれないけど、と前置きを置いたつもりだった。

VRの世界でも僕は振られてしまった。

彼女と出会ったのは仮想空間TMRWでの中だった。最近はやりのVRSNSだ。そこは様々な人がアバターと呼ばれる分身に身を宿し、お喋りを楽しんだり、お気に入りのワールドを巡ったりできる場所だ。そこはデスクトップのパソコンとヘッドセットがあればリアルなVR世界に誰でも入れる。現実での容姿なんか気にしなくていい仮想現実。TMRWの世界を知って僕は、なんて素晴らしい所なんだと感動したのを覚えている。

つい先日、大学生になって初めてできた恋人に振られたばかりで、凹んでいたときに出会ったTMRW。僕はすぐに虜になった。

TMRWにのめり込んで1年ほどしたとき、「彼女」と出会った。

ある日、誰かログインしていないかなとイベントカレンダーを前に考えていたとき、とあるイベントが目に止まった。

Cafeオルテナ

ちょっと行ってみようかという何故か気になるイベントだった。暇を持て余していたし、丁度いいかとそのワールドにジョインした。

そこはスローなジャズの流れる近未来的なCafeだった。心なしかコーヒーの香りがする。すでに何人かの先客が来ていて小さな話し声が聞こえた。

「いらっしゃいませ」

カウンターの奥から、このイベントの主催者らしき人物からの声がかかった。

「こんばんは。このイベントって毎週やってましたっけ?」

僕が話し返すと、

「いえ。不定期に店主の気まぐれで開催しています。申し遅れましたが、店主のウルカです。」

「あ、ご丁寧にどうも。初めまして、タナと言います」

そう言ってぺこりとお辞儀をした。

「タナさん。どうぞごゆっくりしていって下さい」

ウルカはそう言ってカウンターの奥に引っ込んでいった。

ごゆっくりと言われてもなぁと思いつつ、辺りを見渡した。奥で数人が話している。そこから少し離れたところに1人でいる人を見かけた。どっちに話しかけようかと迷っていると、離れにいた1人が近寄ってきた。

次に続く・・・

【筆者紹介】

葵シュセツさんは、MXNの連載小説の筆者であり、メタバース内で活動するアマチュア小説家です。彼は心理学を専攻する大学院生であり、心理カウンセラーの経験を持つなど、心理学に深い関心を抱いています。その後、小説執筆の道に進み、その才能を開花させました。
葵シュセツさんは2022年11月からQuest2単機でVRChatの世界に参入し、執筆活動を続けています。彼の目標は、心理描写を豊かにし、情景を鮮やかに描くことです。日常の出来事や恋愛に焦点を当てた作品を好み、読者に感情的な共感を呼び起こすようなストーリーを作り出しています。
また、彼は煙草とお酒をこよなく愛し、不定期に執筆活動を行っています。彼の作品は、その独自の視点や文学的な才能を反映しており、読者に心に響く体験をもたらしています。
現在、葵シュセツさんの過去作品2作品は、VRChat内の「言ノ葉堂2号店」で展示されており、彼の創作活動が広く紹介されています。MXNの読者は、彼の新たな作品に期待を寄せており、彼の繊細な筆致と創造力に触れることで、メタバースの世界の魅力をより深く理解することができるでしょう。

編集部