華道もメタバースで新たな芽吹き

記事:Masa(まさ)

今回、メタバースに池坊いけばなを持ち込み、床の間を飾っているたけや(takeya)さんのお宅を訪問しました。
たけや(takeya)さんの生けたお花は、毎月のメタバース内における月釜(お茶会)で使用されています。

池坊は、そのHPによると、『日本列島に住む人々は、四季折々に咲く花と触れ合い、現在まで続く伝統文化「いけばな」を生み出しました。池坊は、日本の長い歴史の中で、常にいけばな界の中心的役割を担い続けています。』とあります。
池坊のいけばなは、四季折々の草木の美しさを大切にし、「和」の精神を追求しており、草木の姿が変化する過程や枯れた部分も美しいと考え、お花をいける心として室町時代後期から受け継がれています。

今回は、6月25日(日)の月釜で使用されるいけばなの作成過程を取材に来ました。
池坊のいけばなには「立花(りっか)」「生花(しょうか)」「自由花(じゆうか)」の3種類のスタイルがありますが、ここでは月釜のお花ということもあり、戦後に定着した型のない様式、自由花で茶室の投げ入れ風の作品に仕上げます。
先ずは、お花の調達に、町の花屋へと向かいます。年によって花が市場に出てくる時期は前後するため、どんなお花に出会えるかは運しだいな面もあります。

2軒のお花屋さんをまわりました。月釜の主題が少し時期を先取りする(今回であれば七夕)のと、事前に3D化する時間の関係で、欲しいと思う花が、まだリアルに並んでおらず、花選びは難しくなるそうです。
そんな中で、今回は、メインのお花にオンシジウム(黄)を、その他に風鈴草(白)他計4種を購入しました。

さっそく自宅に持ち帰り、水切りして、しばらくエアコンで冷やした部屋で休ませます。

その間、私たちは小一時間ほど昼食に出かけ、戻ってから本格的に作業に取り掛かります。
とりあえずいけばなの道具類を準備。

花器を選ぶ前に、花それぞれの様子や癖を見て、出来上がりをイメージします。

次にお花と合わせながら花器を決めます。
今回、『鍍金経筒』の花器に決めました。

今回の花器が筒になったため、花留は見慣れた剣山ではなく、割りばしを使った十文字の仕切り留めとします。

ここで一旦、お花から離れ、いけばなの様子をyoutube配信する準備に取り掛かります。
毎回、たけや(takeya)さんのメタバース向けいけばなは、youtubeでLIVE配信されているそうです。

単純にyoutubeで配信するだけではなく、メタバース空間であるVRChat内の和室の大型TVで配信を表示し、そこに見学者が入室してきました。ダイレクトにVRChatの参加者と会話するのとyoutube配信を介して伝わる画像や会話が大きくずれている、つまりラグがあり、それが30秒以上と大きいのが少し気になります。
そして、LIVE配信しながら、いけばなに戻ります。
お花は、メインから生け始め、お花や枝葉の重なり、向きなど様子を見ながら剪定(この作業を「枝葉をさばく」と言います)していきます。

花は、基本生け終わった後に動かしません。また、奥行きのある生け方をして、横広がりに平面にならないようにするものだそうです。
そして完成したいけばなは、こちら。

これで終わりではなく、メタバースとの繋がりに向けた作業は、ここからになります。
いけばなの3D化には、LiDAR(*)を使用します。
LiDARに使用する機器は、iPhone12Pro。
3D化の流れは、iPhoneのLiDAR機能でいけばなをスキャンし、3Dデータを作成します。その後、不要な室内やテーブル部分の形状データをトリミングし、fbxフォーマットのファイルとして出力します。そのファイルを、メタバース茶室への取り込み担当のジェナーラさんへと引き渡すことで、月釜茶室の床の間へと飾られることになります。
その際、iPhoneでのLiDAR撮影は、何度もやり直して、最も良いものを使用します。
枝が細いために消えてしまったり、小さい花などがかたまっている場合は、ノイズとして大きな塊になってしまったりと、なかなか思うようになりません。
うまく撮れていないところ、念入りに撮り直す作業を何度も繰り返します。

それでも最終的に失敗したら、花の選定からすべてやり直すそうです。
今回のいけばなは、残念ながらうまく3D化することができませんでした。
この取材が終わった後日、たけや(takeya)さんが、再度お花の調達からやり直し、生けたお花と3D化したものがこちら。

リアル側
メタバース側

花材は、紫陽花、桔梗、カーネーションです。
このいけばなが6月25日(日)のVRC茶道部6月月釜の床の間を飾っていました。
後日、ジェナーラさんにお伺いいたしましたが、いけばなの3Dデータをメタバースに持ち込む際、そのままの見た目を重視し、データ量が多くなるができるだけ手を入れずに持ち込むとのお話でした。

このようにリアルで表現されている いけばな を、メタバースでも楽しむという新たな取り組みは、メタバースをもっと私たちの身近なものと感じさせてくれるのではないでしょうか。

(*)LiDAR(Light Detection and Ranging)は、光を使って距離を測定するセンシング技術です。レーザー光や赤外線光を照射し、その反射光を受信して物体までの距離を計測します。LiDARは精密な3D地図や環境モデルの作成に使用され、自動運転車やドローン、ロボットなどのセンシングにも活用されます。また、建物や地形の測量、環境保全、災害監視などの応用もあります。(編集部注)