青色の向こう #4(メタバース連載小説)

葵シュセツ

『オレンジ』

視線が合う瞬間だけ、僕らは二人きりになれた。その時の高揚感!
今まで感じたことのない感覚に僕は困惑しながら身を委ねていた。
その一瞬を何度か繰り返していると時間なんてあっという間に過ぎていくものだ。

「そろそろ休むわ。」
エーラがそう言い出したときに、僕はハッと我に返り、今しか無い、と
「皆さん良かったらフレンドになってくれませんか?」
しどろもどろで言った。

「いいわよ。ねえエーラ?」
ギキが話を振ってくれた。ナイスパス!と心の中で思った。ツバキも頷いていた。

「いいわよ。こちらこそよろしくね、タナ」
エーラは心を許した友人のように語りかけてきた。

名前を呼ばれただけなのに一気に距離が近くなった気がしてまたドキッとした。

「あっ、エーラさんよろしく」

「エーラでいいわ」

そう言った彼女はどこか影のある匂いがした。

そしてギキとツバキもそれぞれ名前で呼び合うことになった。

「敬語は禁止ねー。」
ギキのお陰で話し方も気軽になった。これで緊張しなくて済むようになるだろう。

こうしてエーラとの再会でフレンドにもなれたし、名前で呼び合う仲になれたし、今日は良い日だったと感傷に浸っていると、お休みと言ってみんなはログアウトしていった。

ますますエーラから目が離せなくなったな、と思いつつ僕もログアウトをした。

エーラは毎日ログインしているのだろうか?どんなワールドで過ごしているのだろうか?
そんなことが頭をよぎり、ちょっと良い気分でベッドに入った。

翌日、大学であまり多くない友人の1人に話しかけられた。今日飲みに行くので一緒に来ないかということだった。行こうかなと思ったとき、頭にエーラのことが浮かんだ。今日会えるかどうかもわからない。それでもTMRWに行けば会えるかもしれない。僕は友人の誘いを断った。

「何だ。バイトか?」

「まぁそんなとこ」
そう言ってその場を去った。

実際にアルバイトはしていたのだが、今日はその日ではなかった。TMRWのフレンドに会いに行く、とも言えなかった。あの世界観はやってないやつにはわからないだろうし、説明するのも難しく思えた。なので、「まぁそんなとこ」で済ましてしまった。

アパートに帰り、晩ご飯を食べてから僕はTMRWの世界へログインをした。
エーラはまだいないようだ。

他のフレンドを探し、そのフレンドにジョインして世間話をすることにした。ワールドをいくつか巡っていると。インバイトが送られてきた。送り主はエーラだった。

今日もエーラに会える。高鳴る胸を深呼吸で押さえてから僕はエーラに会いに行った。

次に続く・・・