青色の向こう #5(メタバース連載小説)

葵シュセツ

『黄色』

「こんばんはタナ」

「こんばんはエーラ」

そこはエーラのプライベートルームだった。部屋の中には大きな深緑のベッドと二人がけほどのベージュのソファ、そしてベッドから反対側に大きなモニターがあって、聞いたこともないR&B?が流れていた。壁の色は白一色で床は木目調のフローリング。天井は打ちっぱなしのコンクリート様の作りだった。ベッドの側には小さな窓があり、夜空を見上げることができた。

「ここはエーラが作ったの?すごいね!」

「別にすごくなんかないわ。ありきたりの部屋よ」

エーラは謙遜するでもなくサラッと答えた。
エーラの部屋にいる。その事が僕をどれだけドキドキさせたか。

「インバイトをくれてありがとう!」

「昨日タナはもっと話したそうだったから」

見透かされているようで急に恥ずかしくなった。そんなに仕草や発言は変えてないつもりだったのに。ただ視線を交えてドキドキしていただけでそれも伝わってしまっていたのか?
そう思ってしまったら何を話したらいいのかわからなくなってきた。そんな僕に気づいているのかエーラはゆっくりと話しかけてきた。

「ねえ。あなたのこと、もっと教えて」

「えっ?別にいいけど・・・」

相変わらずドキッとさせる。また一段と距離が縮まった気がした。

僕はベッドに腰掛けて喋った。TMRWを始めて1年が過ぎたこと、だいたい午後8時くらいにはログインしていること、普段はフレンドとゲームワールドによくいること、午前1時くらいにはログアウトすること、昼間は大学に通っていること、一人暮らしをしていること、週三日ほど飲食店でアルバイトをしていることなど。エーラは隣で黙って話を聴いていた。しかし、視線だけはじっと僕から離さなかった。アバター越しでも見られている感覚があった。

僕は喋っている間中エーラが何を考えているのか気になった。最初は緊張しながら喋っていたが、話を進めるにつれ、エーラのことを気にする余裕ができてきた。どうして僕のことを知りたいのだろう、エーラ自身のことに触れてもいいのかな。僕もエーラのことをもっと知りたい。お砂糖はいるのかな。お砂糖とはTMRW内での彼氏彼女のような存在だ。でもあまりエーラ自身のことを聞いてしまうと気分を害さないかな。聞きたいようで聞けない自分がいた。僕の話が一息ついた頃、エーラが質問してきた。

「タナはお砂糖はいるの?」

「いや、いないよ。エーラは?」

ごく自然な流れでエーラに質問ができた。それでもドキドキしていた。

次に続く・・・