青色の向こう #9(メタバース連載小説)

葵シュセツ

『藍色』

お砂糖になったから何が変わるのかなと期待していた。
期待通り距離は縮まったが、あまりに急に近くなったのでどう接していいかまだわからずにいた。

エーラのこともっと聞いていいのかな?
毎日会うんじゃ飽きられないかな?
会えない日はどうすればいいのかな?
まだまだ疑問だらけだった。

「どうしたの?」

1人黙って考え込んでいる僕を見て、エーラが心配そうに聞いてきた。

「いや、何だか緊張するなと思って」

頭をかきながら僕は答えた。
二人っきりが特別になって間もない。
今までとは違った緊張感が僕を包んでいた。
エーラは、何も心配することはないわ、と言いそっと手を添えてきた。
お砂糖ってこんなに距離が近くなるんだとドキドキした。
VRゴーグル越しでもエーラのぬくもりが伝わってくるような気がした。
しばらくすると落ち着きを取り戻してきた。

「今日は行きたいワールドがあるの」

そう言ってエーラはポータルを開いた。
何やら宇宙空間のようなものが見えた。
僕は黙って付いていった。
そこは地球を眺めることができる月面の上だった。
とても静かなワールドだった。
そこでエーラはワールドの話をし始めた。
文学に触れる読書ワールドやクラシックなカフェのワールド、景色の綺麗なワールドの話をした。
あまりたくさんのワールドを巡っているわけではなく、1人でも行けて静かに環境に浸れるワールドばかり行っていたようだった。
Cafeオルテナもその中の一つだった。
店主のウルカとはよく話をするらしいことがわかった。ギキとツバキにはそこで声をかけられて出会ったのだという。

「じゃあ結構前からオルテナのイベントはやってたんだね」

「さあ。この一年くらいで私も行き始めたからその前はやってたかどうかは知らないわ」

「一年以上前かあ。エーラはいつからTMRWをやってるの?」

「そうね・・・。二年くらい前かしら」

そうだったのか。初めてエーラの事を少しだけ知った。
もっと知りたい気持ちもあったが色々聞くのは気に障るかな?と思って聞けなかった。
お砂糖になったからと言って何でも聞いていいわけではないだろう。そのくらいは僕もわかっているつもりだ。

この日はここまでになって、午前2時頃ログアウトした。
いつもより遅くなったが、ログインしたのも遅かったので、こんなものだろうくらいにしか思わなかった。僕は眠い目をこすり、エーラの事が少しわかったことに喜びをかみしめてベッドに入った。

次の日、目を覚ますのがやっとなほどの眠気があった。

あくびをしながら僕は大学へ向かった。
今度から一コマ目に講義があるときは早めに寝ようと思った。
エーラもわかってくれると思っていた。

次に続く・・・