青色の向こう #11(メタバース連載小説)
葵シュセツ
『ベージュ色』
僕たちにはまだ知らないことが多すぎた。
いや、僕が知らないことが、と言った方が良いだろう。
エーラだけが二人の事を考えていたんだ。
そう思うとお砂糖になって舞い上がっていた僕が情けなくなってきた。
急にしょんぼりとした僕にエーラは優しい声で言った。
「これからは二人の時間をもっと大切にしていきましょう。だから側にいてね」
もちろん、と僕は答え、エーラを見つめた。
視線が交錯する。
あー、この感覚だ。視線が絡み合い、脳にしびれが走る。
エーラに惹かれた最大の理由。
僕はこの刺激から逃れられない。
それから、僕とエーラはお互いに二人の時間について話し合った。
基本的に午後8時にはログインすること、バイトの日は前もって伝えること、ログインできない日も前もって伝えることを話した。
こうしてお互いの約束としてログイン時間は機能していくことになった。
その日から二ヶ月が過ぎた。
僕は春休みに入り、相変わらずTMRWでエーラとの時間を過ごしていた。
8時にログインして二人でゆっくりお喋りする。
春休みということもあり、エーラとは夜中まで一緒にいることが増えた。
Cafeオルテナがオープンしているときには二人ともそこに行って、ギキやツバキと話していた。
もちろんお砂糖になったことは言っていない。
同じワールドにいるのに二人からは何の詮索もなかった。
まあお陰で何の心配もせずエーラと二人の時間を過ごせたのだが。
「二人とも何も詮索してこないね」
「ギキもツバキもそれほど関心ないのよ。会ったときだけが話をするときなの」
「ギキともツバキとも一緒にワールド巡りなんかはしないの?」
「そうね。オルテナで会うだけだわ」
「そうなんだ」
この世界(TMRW)にいるとイベントでしか話さないフレンドもいる。
エーラにとってあの二人はそういう存在なのだろう。
僕もそれ以上尋ねなかった。
やがて春休みも終わり、新学期が始まった。
夜中心の生活リズムを元に戻さなければならない。
エーラにもそれとなく話した。
「大学が始まったから、少し早く休もうと思うんだ」
「早くってどれくらい?」
「午前1時にはログアウトしようと思う」
「そう。ずいぶん早いわね」
「そうかな?今までが遅かっただけじゃない?」
「一緒にいる時間が減るってこと?」
「うーん、そうなるね」
「・・・そうね、仕方ないわよね」
「うん、ごめんね」
僕だって寂しい。
エーラも寂しいと思ってくれているのだろうか。
後に、この三ヶ月のうちに慣れが生じていて、緊張感がなくなっていたことを後悔することになるのだった。