劇団コメディアス密着取材 – ポップな笑いの作り方 その② –
記事:cold_mikan
VR連動企画【KEY LOCK】
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劇団コメディアスでは、新奇性のある体験をコメディという形で提供するを理念に、オンライン・オフライン問わず複数のチャンネルから幅広い人々の日常へコメディ体験を届ける作品を制作している。
前回に引き続き、【劇団コメディアス密着取材 – ポップな笑いの作り方 -】では、オンラインの場を活用した作品制作の裏側に迫る。
― その② 新奇性のある体験 -ZoomやVRを活用したリモート演劇の活用- ―
新型コロナウイルス感染症の感染防止策として、密閉空間に不特定多数の人が接触することや密集することが困難になった。人々の当たり前だった生活スタイルを大きく変え、事業者、私たちの心を豊かにしてくれる娯楽、文化芸術にも打撃を与えた。
リモートワークの推進は、奇しくも時間と空間を共有することが不可欠である舞台芸術を行う人々が、時間と空間を共有できない人々に向けてオンラインを活用し、ライブ配信、動画制作またはVRの活用を通じて生の舞台に近いものを模索される大きなきっかけとなった。
舞台・映像・VRの異なる手段で作品作りを行う劇団コメディアスはリモート演劇をどのように考え、模索し、どんな体験を観客に伝えようとしているのか。
Zoom演劇って流行ったじゃないですか。我々も、いくつかZoom演劇作っていたんですよ。当時、一か月に1本くらいのペースで。
コロナ禍の2020年。劇団コメディアスのYouTubeチャンネルにも、ZoomやVRを活用したリモート演劇作品が投稿されていた。
劇団員の大橋秀喜さん(以下:おおはし)は、学生時代から劇団コメディアスとして演劇活動に取り組んでいたが、岩手県に赴任することになり、活動を休止せざるを得なくなった。しかし、リモート演劇を活用したことによって、再度作品に役者として合流することが出来た。
当時大橋さんが体験したリモート演劇に対する感触についてインタビューをした。
私、2022年の3月まで岩手の方に仕事で行っていたんです。なので、みんな東京なんですけど、私、一人だけ岩手でやっていたので、そういう意味で、都心の東京という場所で集まらなくても、岩手にいても東京の人と演劇ができる。…演劇っていうか、リモート演劇ですが…。
それがVRにもつながってくる。VRにも、共通すると思うんですけれども、場所で集まらなくても演劇ができる。コロナを経て、リモート演劇・Zoom演劇とかっていう、場所の制約に留まらない創作ができるのは面白い取り組みで、コメディアスは結構そういうことを2020年から、先駆けてやっています。
(リモート演劇の難しかった点は)通信状況に左右される。あと、生とは違う…ちゃんとこっちの会話が届いてなかったり、二人とも同時に声を出しちゃったりして、「あ、どうぞどうぞ…」みたいな。そういうの生だとないんですけど…リモート会議とかもそうですよね。
今コメディアスは、こういうメンバーですけど、2019~2020年は結構他にも色々いたので…。社会人になると、仙台で働く人とか、東京で働く人とか、転勤とかもあると思う。時間的にも物理的にも変化がある。私も仕事の都合で、岩手にいたので、そういう時でも東京の人と交流できる、一緒に作品作りをできるというのは、やりたかったことだなって。
例えば、稽古場に移動しなくていい。リモート演劇も仕事中のちょっとした休憩時間でちょっと出演して、撮影して、ということもありました。
2020年以降のYouTube動画が、コロナが始まってから撮影されたZoom演劇やVR演劇です。
(2021年の)【段差インザダーク】では、「コロナに負けないで演劇を頑張る演劇の人を応援してほしい」というクラウドファンディングしたことがありました。コメディアスを知っている人だけじゃなくて、「コメディアスという言葉を知らないけれど、コメディをやっている劇団がコロナ明けでも灯火を消さないで頑張っている」みたいな形で外部にも伝わった事例だったな、と思います。
(記事挿入:著者 劇団コメディアス 広報 大橋さん)
VR演劇やろうと思って、劇団に持ち込んだのは私の方です。
VRというものがあって中に空間があるということをミライアカリさんがVRChatで遊んでいる動画で知って、「これは変なことになるな!これを演劇で使ったらおかしなことが出来そうだぞ!」と思ったんです。その時は、そのくらいの嗅覚でしかなかった。VR上で公演するのか、現実の舞台でVRを使うのか全然そこまでは考えてなかった。
「これはやっておいた方がいい。しかも慣れるのに時間がかかりそうだ」と…だから、早めに手を付けておこうと思って2019年くらいからVRChatを始めました。
今では色々な人がやっているけど、当時(2018~2019年)は『バーチャル劇団まぼろし座』さんがいるくらいでやり方がよくわからなかった。まぼろし座さんはVket3とのコラボや、劇団として何度か公演をして、主催の方も、過去に現実で演劇作家されていた人だと思う。まぼろし座さんが既にVR上で公演とかやっていたから、そういうのを見て、俺たちもできるよねって話はしていて。最初は何かテキスト選んで読んでみよう、みんな知っている本を選んでみようということから夏目漱石の名作【夢十夜】をVRChatの空間上で映像作品にしました。ただ、はじめてVR上で演劇をやった時の感触は、何をしたらいいかが全く分からなかった、というのが正直なところ…。「なにをしたらいい」というのは何をすべきかという意味ではなくて、何をすることがお客さんに働きかける有効打になるのか。
【夢十夜】の時はDrama Hallすら知らなかったから、普通のワールドでやっていたんだけども、ワールドの背景がしっかりしているほど良いかっていうと、定義がよくわからなくなる。舞台というものがしっかりあることによる「ここは劇場なんだ」っていう見る側の身体の状態があるのに、ワールドだけあるとそれは無い。だから、映像撮っても演劇的な見方で観客が見てくれるとは限らない。現実の劇場の効果みたいなものが無い状態でやるから、それが分からなくて。
【キョウシュウジャー】はVR演劇ではなくて、映像作品のツールとしてVRを使った感じなので、あそこでもよくわからなかった。Zoom演劇ってすごく平面的。演劇の要素を、一部しか抽出できてない。身体性が無いな、って思って。
身体性のあるVR演劇って何だろうって考えたときに、「巨大ロボットを動かす…VR使えるな」と思ってやりましたね。どちらかというとZoom演劇にVRを足した。あれは作り方として、正しかったかはさておき、最初はVRで入っている人とZoomで入っている人を、それこそエチュードみたいな感じで、どちらも同時にやったんですよ。でも、「これ、無理だな!」って途中でなって、結果的に荒くロボットの動きを作ってそれに声当ててもらって、映像を後から撮り直す…みたいな、結構色々二転三転してようやく作ったって感じだった。あれはちょっと…作り方よくわかってなかったんだな、って。もう一度ちゃんと作りたいって気がしますね。
VR上で公演をしたきっかけはTosiakixさんがかなり大きいです。演出は私だったんですけど、最初はTosiakixさんの方から、これコメディアスで作ってくれませんか、という風に…。
いきなりオリジナル作品を一からVRChatでやるのは、凄く大変だと思うので、すごく助かりました。
【ほんとうのわたし】をVR空間上で演劇公演として作るくらいの時期になるまで分からなかった。
やっぱり現実の舞台ではデカいものが動くだとか、物理的な要素を扱うことをやると客席の心が動くというのは凄くあったから、そこに根差して作っていたんですけど、VRってその感覚がまだあんまりなかったし、何をやれば観客が喜んでくれるのか分からなかった。コメディで有る無いに関わらず、あまり心が動く瞬間を捉えられなかったんだよね。
それはDrama Hallを知って【ほんとうのわたし】を稽古し始めてからも、ここにお客さんが来るんだとしてもあんまりピンとこなかったんですよ。
だけど、一回負荷テストも兼ねて、シーンの途中までやっているのを観客に観てもらった時に、結構お客さんが見ている感触が伝わってきて、「あ、ここでこういう風にやればいいんだ」っていうのが初めて分かった。
そういう意味で、だから【Bの悲劇】はすごい大きいんですよ。劇団としては初めて自分の作品でVRで、ちゃんとやったっていうのは。
演劇が、空間の芸術だと思うんです。私だと特に、舞台美術とかから色々作りこみたいタイプだから、空間ってすごく大事だなって思って。Zoom演劇とかは空間性が無いので平面的になっちゃうのが勿体ない。
演劇の良さってやっぱり観客と役者さんが同じ空間上に存在するってことだと思うんですよ。
同じ空間って定義が旧来なら、物理的に接続された同じ場所っていう意味にしかならなかったのが、今、VRがあることによって、リモートだけど同じ空間っていうのが作れるようになっていると言っても良いと思うんです。
だから、演劇が一番苦しかった時期って多分2000年代からインターネットが普及して、YouTubeが出て来て…演劇は勝ち目がない感じでしたけど、VRが出てきたことによって、動画よりも、空間性が必要な演劇がやっぱり一番向いているんじゃないかなって思っています。
生での動画配信やVRを活用することによって、観客と出演者が同じ空間に居られなくても繋がっているような心理状態になる事は可能かもしれない。
舞台芸術の新しいフィールドとしてのVRを活用し演劇を行うことは、新たな表現方法を生む新時代のクリエイションであることは間違いないだろう。
(第二回 了)
→第3回 『その空間でしかできないことへの模索 – VR文化と演劇文化の懸け橋となるために- 』へ続く