青色の向こう #12(メタバース連載小説)

『灰色』

新学期が始まり、学業の方が忙しくなってきた。
バイトもシフトに入る日が増えた。
自然とTMRWに入る時間も短くなっていった。
大学はこの一ヶ月くらいは忙しくなりそうだとエーラには伝えた。
エーラは

「そう・・・」

と答えるだけだった。
エーラも現実生活が優先なのを理解してくれていると思っていた。
今までエーラと毎日過ごしてきて、エーラがログイン時間に遅れたり、会えない日を伝えてきたりしたことは一度もなかった。
僕がバイトで遅くなる日も必ず待ってくれていた。
その事に何ら疑問を持つ事はなかった。
エーラとは会う時間を決めていたんだ。
僕も約束を破ったことなど無かった。

ただ会う時間が短くなる。
その事はエーラにとって大事件だったのかもしれない。
僕にとっては一時の忙しさが過ぎればまたいつものようにゆっくりできる。
そう思っていた。

それから一ヶ月が過ぎた。
学業も落ち着きを見せ始め、バイトがない日は普通に会えるようになった。
その事を伝えると、

「そう。私も少し忙しくなったの。会える時間が少なくなるわ」

「そうなんだ?リアルも大事だし仕方ないね」

そう答えた後エーラは震えるような声で言った。

「・・・仕方がない?それで片付くことなの?仕方がなくなんてないわ!会う時間を作る努力をしてないだけじゃない!」

僕はエーラの迫力にびっくりしてしまった。

「私は努力したわ。この一ヶ月、会えないなんて一言も言わなかったじゃない!それは二人の時間を作るために努力してきたからなのよ。あなたは学業が忙しいとか、バイトが増えただとか、周りのせいにしかしてなかったわ。二人の時間を少しでも作ろうと何か努力したの?」

そこまで言われて僕は黙るしかなかった。
会えることが当たり前と思っていた自分が確かにいたのだ。
そこに努力をしていなかった。
脳に直接話しかけられたような感覚になった。

「確かに努力してなかったと思う。その事については謝る。ごめんね。でも僕にも生活がある。そこを削る事はどうしてもできなかったんだ。その、何て言うか会えるのが当たり前だと思い込んでいた。エーラがそんなに努力をしてまで会いに来てくれてただなんて驚いた。」

僕は慌てて言い訳をすることしかできなかった。
エーラの熱量に押されていたのだ。

「私たちが会えるのはお互いが努力して初めて会えることなの。ねえ、わかる?自然と会えるような時間の作り方じゃ会えないのよ」

僕は何も言い返せなかった。
会う努力。
そんなことは考えてもみなかった。

次に続く・・・