青色の向こう #13(メタバース連載小説)

『赤色』

僕はログインの時間さえ守ればいいと思ってた。
そうすると、いつもそこにエーラがいた。
何気なくいたんじゃなかったんだ。
僕の時間に合わせる努力をしていたんだ。
僕にとってその事は衝撃的な事実だった。
お互いのログイン時間が合うときに会えればいいなどと思っていた僕はエーラの努力に、気持ちに全く気づかなかった。
僕はエーラの努力に甘えていただけだったのだ。

「これからはもっと側にいてよタナ。会える努力をしてよ…」

「…わかった。できるだけ会う時間を作れるように努力してみるよ」

エーラの気持ちに応えるにはそうするしかなかった。
できるだけエーラの側にいられるようにやってみよう。
エーラは

「側にいてくれるのね?信じていいのね?」

のぞき込んで視線を合わせて確認するように呟いた。
僕は視線をそらすことなく

「うん。側にいるよ。ちゃんと努力する」

そうエーラに話しかけた。
エーラは

「私も努力するわ。あなたが側にいてくれる限り」

そう言ってまたじっとのぞき込んできた。
視線が絡み合う。
あー、またこの刺激からは逃れられない。
ほんの数秒でエーラは僕のこころを支配していく。

この日はエーラに合わせてずっと側にいることにした。
明日のことなどどうでもよくなってきた。
結局午前3時まで一緒にいることになった。

「また明日。おやすみなさい」

エーラが言った。

「うん、また明日。おやすみなさい」

僕も返事をした。
ヘッドセットを外し、ベッドに入った。
エーラの事が頭に浮かんだ。
お砂糖と会うには努力しなければならないのか。
そうだよな。
みんな忙しい時間の合間を縫って逢っているんだ。
僕だけが流れに任せるわけにはいかない。
もっと努力しないと。
そんなことを考えながら僕は眠りについた。

こうして僕は睡眠時間を削り、バイトを削り、できるだけエーラの側にいることになった。

エーラは以前よりも長い時間、僕と過ごせることに満足しているようだった。
エーラも僕と過ごすために努力しているんだ。
僕だけが怠るわけにはいかない。
やがてエーラが生活の中心となっていった…。

「お前最近様子が変だぞ」

そう言ってきたのは数少ない大学の友人の一人だった。

「至って普通だよ。変ってどう変なんだ」

僕はゆっくりとそう言った。

「最近遅刻も多いみたいだし、バイトも減らしてるそうじゃないか。俺たちとの付き合いも無いし何か他のことでもやってるのか?」

「別に何も…。ちょっと寝不足気味なだけだよ」

それ以上詮索されないように、それだけ言ってその場を離れた。
あいつらにはわからない。
エーラと過ごす時間を確保するための僕の「努力」が。

次に続く・・・