青色の向こう #15(メタバース連載小説)
葵シュセツ
『銀色』
「これからは夜9時にログインしようと思うんだ。そして夜1時にはログアウトしようと思う」
「バイトの日はどうするの?」
「できるだけ早く帰ってログインするよ。そしてバイトの日も夜1時にはログアウトしようと思う」
エーラはか細い声で言った。
「そう・・・。一緒にいる時間が短くなるのね」
僕は極力明るく
「その分、一緒にいる時間を大切にするよ。そして毎日ログインしてエーラに逢いに行く」
エーラは不安そうに
「毎日逢えるの?」
と言った。
僕は毎日規則正しい生活をして、勉強の時間を確保できればいいと思っていたのでTMRWには毎日ログインするつもりでいた。
「毎日会いに行く。約束するよ」
「・・・わかったわ。あなたの勉強の邪魔はしたくないの。タナががんばっているならそれでいいわ」
「ありがとうエーラ。毎日勉強をがんばるよ」
やはりエーラは僕の言いたいことをわかってくれていた。
これで前期の遅れを取り戻せる。
勉強もしっかりできる。
僕は友人から授業のノートを借りて空いた時間を埋めるように勉強に没頭した。
その分、エーラと会える時間は少なくなってしまったが、毎日必ず逢いに行った。
少ない時間を大切にするように、エーラの好みそうなワールドに行って夜1時まで話した。
月の見える丘、海の見える浜辺、夜景の見えるカフェバー、そしてエーラの部屋。

二人きりの時間はあっという間に過ぎていったが、それでも僕は十分に満足していた。
「もうこんな時間だ。1時になったから休むね」
「もうそんな時間なの?また明日も逢える?」
「明日も逢えるさ。夜9時になったら会いに行くよ」
「そう。わかったわ。」
「うん。それじゃあまた明日。お休みエーラ」
「お休みなさいタナ」
そう言って僕はTMRWからログアウトした。
生活リズムも安定してきたな。
勉強にも集中できるようになった。
このまま勉強を頑張ればまた元のようにエーラと過ごす時間が増やせる。
僕はきっとそうに違いないと思っていた。
やがて一ヶ月が過ぎた。
僕の勉強は友人のノートのお陰もあり、前期の復習をほぼ終えることができた。
その頃には夏休みに入っていた。
規則正しい生活と、日中のしっかり集中した勉強のお陰で、すっかり活力を取り戻した。
バイト先の仲間にも
「最近顔色いいね。何かいいことあったの?」
何て聞かれることもあり、その度に僕は
「規則正しい生活リズムを送れるようになったからですかね~」
なんて話してた。
確かに睡眠時間も十分に取っているので疲れを翌日に持ち越さなくなった。
僕はこのままのリズムで生活していければいいなと考えていくようになった。