青色の向こう #16(メタバース連載小説)

『真っ白』

ある日エーラから聞かれた。

「勉強ははかどってる?」

「うん、順調だよ。前期の分の復習はほぼ終わったかなー」

僕は何気なく言った。エーラは

「良かったわ。これで逢える時間が長くなるのよね?」

そう言われて僕は考え込んでしまった。
今の生活リズムで落ち着いてしまったら、この方がメリハリが付くことがわかってしまった。
できれば今のリズムを崩したくない。

「いや、まだ勉強しないといけないところもあるし、もうしばらくはこのペースで行きたいんだ」

「そうなの?今夏休みでしょ?そんなに勉強しなきゃいけないの?」

「そうだね・・・。通年の授業だと復習だけじゃ追いつかないから。軽く予習もしておきたいんだ」

我ながら苦しいいいわけだと思った。
続けて僕は

「もちろん会えるよう努力はするよ。ただ以前のように勉強や睡眠の時間を削って、とは行かないと思う。」

「どう努力するつもりなの。もっと効率よく勉強できないの?そしたら逢える時間も増えるでしょ?」

少し考えた後、僕は思いきって切り出した

「正直今のペースで丁度いいと思うんだ。夜9時にログインして逢って夜1時にログアウトして休む。これが僕の生活リズムとよく合うんだ」

しばしの沈黙の後、エーラは言った

「…今が丁度いい?たった4時間しか逢えない今が?その前に過ごした時間は何だったのよ!努力って何よ!またそうやって自分のことばかり優先にするの!」

エーラは泣いているようで怒っているような剣幕で言いかかってきた。
僕はすぐに

「自分のことばかりのつもりじゃないよ。エーラだって規則正しい生活をしてたでしょ?それが大切じゃないの?リアルがあって初めてのTMRWじゃないの?」

「私はタナに逢えることが一番なの!どれだけ私が我慢してきたと思ってるの!」

「我慢させていたことは謝るよ。ただ今の生活リズムは崩したくないんだ。すれ違いが増えることもあるかもしれない。だけどこのままじゃ別れてしまうかもしれない。だからお互い努力をしようって言いたいんだ」

「…それがあなたの考えなの。いいわ、別れましょう。別れが選択肢に入っている話し合いなんて意味ないわ。」

そう言って彼女は去って行った。

「何なんだよ、もう!」

ヘッドセットをもぎ取り僕はため息をついた。

付き合い始めて半年。最初で最後の喧嘩になった。

僕の言った「別れ」とは、僕が振られるかもしれないと言う意味だった。
決してこっちから別れる気なんて無かった。
ただ振られるのが怖くて別れることになるかもしれないけど、と前置きを置いたつもりだった。
VRの世界でも僕は振られてしまった。

次に続く・・・