青色の向こう #17(メタバース連載小説)【完】

『青色の向こうへ』

エーラに振られてから一ヶ月。
僕は相変わらず夜9時にTMRWにログインし、夜1時にログアウトしていた。
それはたぶんあの時のいいわけが言いたくてエーラを探していたんだと思う。
未だにエーラから、あの視線から離れられずにいた。

Cafeオルテナにも顔を出したがエーラの姿はなかった。
正直、エーラの言う「側にいて」はよくわかっていた。
いや、わかっていたつもりだった。
エーラは純粋に「逢いたい」だけだったのだ。
そんな純粋なエーラの気持ちもわからないまま自分の都合だけを押しつけてしまった。

初めは何もわからないままエーラの言う通りに振る舞っていた。
それが自分を犠牲にしてしまっているとも思っていた。
エーラはそんなことを望んじゃいなかったんだ。
できる範囲で逢える時間を作る努力をしましょうと言うことだったと思う。
できない範囲まで手を伸ばしてエーラの前でできるフリをし続けていた。
そんなことは間違っていたんだ。

嫌われたくない一心でエーラの前でもがいていたに過ぎなかった。
きっとエーラに「好き」と言う気持ちをもっと伝えていればこんな結末にはならなかったと思う。
それも今じゃただの願望に過ぎない。
別れてしまってから気づいたんじゃ何もかも遅い。
エーラを理解するには僕は幼すぎた。

自分のことで手一杯になっていて相手を思いやる余裕がなかった。
そんなことで無理をするもんじゃなかった。
たぶん、できないことはできないって言えてたらこんな結末になってなかったんじゃないかな。
それは僕だけじゃなくてお互いに。
私を、僕をわかって!って言い合ってたんだ。

今だから落ち着いて考えられる。
当時はそんなことはできなかった。
今だから言える。
エーラが僕を一歩大人にしてくれたと。
皮肉にも振られたことでそのことがわかった。

エーラには感謝しなければいけない。
もっと冷静に物事を考えて、相手を思いやり、背伸びをしない恋愛をするって大切なんだって。
現実世界でも、TMRWの世界でも大切なものは同じなんだな…。

それから3ヶ月が経った。

僕は相変わらず夜9時にTMRWにログインし、夜1時にログアウトしていた。
以前と変わったことは、エーラの影を追わなくなったことだ。
TMRWでは馴染みのフレンドとまた遊んだり話したりするようになった。

エーラとお砂糖だった頃はできなかったこと。
エーラと別れて以来、僕は身近なフレンドとの時間をもっと大切に思えるようになった。
ただお砂糖は作っていない。
どうしても作る気にはなれなかった。
僕にはまだ早い。
何て思ってもいた。

エーラと過ごした日々はまるで色あせた写真のように僕のこころに残っていた。
しかし、それも思い出に過ぎない。
二度と色を取り戻すことない思い出。
新しい写真が加わるとしたら今度は別の色をした別の写真が加わることだろう。

ここは仮想空間TMRW。
常に新しい刺激で満ちている。
僕はその新しい刺激に飲み込まれないよう、現実の世界とを行き来する。
そして今日もまたTMRWに夜9時にログインする。

【御礼】

葵シュセツさんの『青色の向こう』を最後までお読みいただき、ありがとうございました。作者には、また次の小説の構想を練っていただいておりますので、近々再開できるものと思います。楽しみにお待ちください。

編集部