VRがやりたい!#2(メタバース連載小説)
葵シュセツ
VRゴーグルって?
「VRゴーグルならこちらにありますよ?」
促されるままその店員の後に付いていった。
すると売り場の一角にVRゴーグルがドーンと鎮座していた。これでTMRWができるのか?見た目は頭に被るようなゴーグルだったが思っていたよりもコンパクトだった。
VRゴーグルの隣には何かコントローラーのようなものが置いてあった。これで操作するのか。しかし一体どんな景色がこのコンパクトなゴーグルに写るのだろう?気になって仕方がなかった。
「試しに被ってみますか?」
店員の声にハッと振り向き、いいんですか?と目で訴えた。店員はにこりとして頷いた。
「TMRWでしたよね…」
そう呟いた店員はそのゴーグルを被って何やら操作し始めた。
何だ?何をしてるんだ?固唾をのんで見守っていると、店員がゴーグルを取りこう言った。
「とりあえずTMRWに接続してみました。いかがです?試してみられては?」
!。何と!。お試しができるだと!?この店員、どこまでこちらの気持ちを揺さぶる気だ!
「い、いいんですか?」
「まあ体験してみるのが早いと思いまして。少し動き回れる場所を用意しました」
そう言って店員は笑顔で頷いていた。
何と憎らしい店員だ!これはもう試すしかないではないか!
恐る恐る手に取って、VRゴーグルを被ってみた。その先には想像以上の景色が広がっていた。ゴーグル越しに奥行きのある空間が広がっている。どこかの街のようだった。ずっと先まで見えるかのような街並みは手を伸ばせば掴めそうで掴めないVR空間だった。
伸ばした自分の手が立体的に見える。これは錯覚なのか?コントローラーを持つ手が空間に浮いている。コントローラーを握ればVRの中のものでも握ることができた。
前に進んでみるとまるで景色が迫ってきて流れていくようだった。こんな!こんなにも空間に没入できるものなのか!自らの足は動いていないのに、まるで実際に歩いているかのような感覚。コントローラーのレバーを前に倒し続けた。
「お客様!危ないですよ!」
店員の声に我に返った。どうやら実際に歩いてしまっていたようだ。何という不可思議な体験!
VRゴーグルを付けてVR空間に入ってしまうと、現実の自分も同じような動きをしてしまっていたらしい。
「ああ、すみません!」
そう言ってVRゴーグルを外すとまた元のお店の景色が広がっていた。もう一度VRゴーグルを被ってみた。やはりそこには見知らぬ街にワープしたような世界が広がっていた。何という不思議な体験だろう。VRゴーグルを外し、店員の方を見た。
「いかがでしたか?」
店員は相変わらず笑顔でこちらの方を見ながら言った。
「何というか、その、不思議な感覚で…。まるで違う世界に迷い込んだような感覚でした…」
店員はうんうんとうなずきVRゴーグルを元の場所に戻した。
こんなにもリアルな別世界なのか。VRの世界は直接脳に訴えるような衝撃的な世界だった。これは誰もが感じる感覚なのだろうか?TMRWとは現実とは全く違う別世界に入り込んでいくということなんだな…。
これはもっと入って行きたい。他の人ともTMRWの中で喋ってみたい。そんなことを考えるだけで身体がぶるぶると震えだした。
そこで気になってくるのがこのVRゴーグルの値段だ。きっと高いに違いない。恐る恐る店員に聞いてみた。
「それでこのVRゴーグルはいくらするのでしょうか…」
店員は相変わらずニコニコしながら答えた。
「このVRゴーグルだと79,800円になります!」
うーん。思ったよりも高くない、が安くもない。試しに他のVRゴーグルはないかと聞いてみた。
「当店でお取り扱いしているのはこの1種類だけですね。半年前に出た最新式のVRゴーグルなんですよー」
そうなのか…。どうしよう。がんばれば買えないことはない。しかし生活費を切り詰めないとちょっと苦しい。しかし、あのVRの感覚は値段以上の価値があるとも思う。
なかなか思い切れないでいる。しかしTMRWはやりたい。どうせ買うなら最新式の方がいいような気がする。どうしよう。一度手に取ってしまった以上、手放したくないという気持ちも出てきている。
うーん…。正直すぐにでも欲しい。しかし、しばらくすれば値下がりしたりするんだろうなとも考えられる。それまで待つのか?いや、待てるのか?どうする、俺。
ダメだ…。楽しいことしか頭に浮かばなくなってきた。ここで買わなきゃいつ買うんだ!勇気を持って思い切って店員に声をかけた。
「このVRゴーグルをください!」
店員はニコニコして
「お買い上げですね。ありがとうございます!」
そう言ってレジへと誘導を始めた。
言ってしまった…。もう後には引けない。がんばったな、俺。これでTMRWができると考えると、後悔よりもワクワクが大幅に勝っていた。ちょっと興奮している自分がいる。
あんな体験をさせられたらすぐにでも欲しくなるに決まっている!手に入れたVRゴーグルを大事に抱え帰路についた。これでTMRWができる!頭の中はその事でいっぱいになっていた。 この日が、手を差し伸べてきたTMRWと手を握った瞬間だった。早くTMRWという華やかな沼に飛びこんでみたい。今まで以上にTMRWの沼が光り輝いて見えていた。
次に続く・・・