青色の向こう #2(メタバース連載小説)
葵シュセツ
『初めての色』
「こんばんは」
急に話しかけられてドキッとした。
「あっ、はい、こんばんは」
僕は慌てて挨拶を返した。
「ここは初めてですか?」
女性の声。この世界で女性と会うことは珍しいことだった。ボイチェンでもなさそうだ。その声に新鮮さを覚えた。
「はい、初めて来ました。よく来るんですか?」
「まぁ、たまに」
ちょっと素っ気ない返事が返ってきた。
「初めまして。俺タナって言います」
「初めまして。エーラです」
今度はにっこりしたような返事が返ってきた。何だろう。不思議なしゃべり方をする人だなと思った。それが「彼女」の第一印象だった。
少しぼーっとしていると、
「エーラ!こんばんは」
「こんばんは。エーラさん」
と、二人の人物が話しかけてきた。エーラは、
「こんばんは、ギキ。こんばんは、ツバキ」
と愛想よく挨拶を交わした。どうやらエーラのフレンドのようだ。
「エーラこちらは?」
「こちらはタナさん」
「初めましてタナです」
「初めましてギキです!」
「初めましてタナさん。ツバキといいます」
ギキとツバキと呼ばれた二人と挨拶を交わす。ギキは女性、ツバキは男性のようだ。挨拶が終わるとエーラを中心に話が始まった。
エーラは時に相づちを打ち、時に意見を言い常に話の中心となっていた。ギキもツバキもそれが当たり前のように話を続けていた。ギキはよく笑い、ツバキはよく頷いていた。
ポツンと置いてけぼりを食らったかのように僕はその場にたたずんでいた。いや、その場から離れられなかったと言うべきか。エーラを中心とした話の輪の中に引き込まれつつあった。エーラにはその場を把握する能力でもあるのだろうか。とにかく目が離せなかった。その能力の一つが視線だ。アバターを通しているのに、時折エーラの視線を感じた。何だろう、この不思議な感覚は。僕のことを意識しているのか?。だとしたらそれはそれで嬉しいものだ。ヘッドセットの中でにやけてしまった。
時間があっという間に過ぎていき、0時を回ろうかとしていた。その間、僕はその場に居ただけで何も話せなかった。
「私そろそろ休むね。お休みなさい。」
エーラの一言でその場はお開きになった。そのときも一瞬、エーラの視線を感じた気がした。彼女は何者なんだろう。気になり始めたときには誰もいなくなっていた。
【挿絵紹介】
『青色の向こう』に使われている挿絵は、編集部員であるmaropiさんがすべてMidjourneという生成AIを利用して描かせたものです。
生成AIを使って挿絵を描くと聞くと簡単そうに聞こえますが、思うイメージの挿絵を描かせるのはなかなか難しいものがあるようです。
さらに連載の挿絵となると、AIに前後挿絵の辻褄を合わせさせるのは困難となってきており、そこがこの生成AIでの一番の課題となってくるかもしれませんね。
なかなか綺麗でいい感じの挿絵になっていると思っていますが、さて次回はどうなりますでしょうか。
みなさん、次回以降もお楽しみに!
編集部