青色の向こう #3(メタバース連載小説)
葵シュセツ
『紅色から』
僕はTMRWからログアウトした後も、エーラのことが気になっていた。
また会えるかな。そう思いつつベッドに入った。
次の日の朝、寝ぼけながら昨日のことを思い出した。思い出しているうちに家を出る時間になったので僕は慌てた。昨日のことは昨日のこと。そう言い聞かせて大学での生活に勤しんだ。
アパートに帰り着いた頃には身体が冷え切っていた。真冬の自転車通学はひどく寒かった。暖房をつけて、冷えた身体を温める。ついでに買ってきたコンビニ弁当も温める。ようやく暖まってきた室内で僕は弁当をかき込んだ。シャワーを浴び髪を乾かすと僕はTMRWの世界へと入っていった。
エーラにまた会えるかな。そんな気持ちを抱きながら一日が経ち、三日が経ち、十日が経った。
もう会えないのかな。そう思った十一日目に、
Cafeオルテナ
のイベントを見つけた。僕はすぐにジョインした。
相変わらずスローなジャズとコーヒーの香りのするワールドだった。店主のウルカを見かけるとすぐにエーラが来ているか問いただした。ウルカは頷くと、あちらにいらっしゃいますよ、と奥のテーブルを見た。
奥のテーブルにはエーラのアバターが見えた。ギキとツバキも一緒だった。
やっとエーラに会える。そう思うと急にドキドキとしてきた。奥のテーブルまで歩いて行きドキドキが治まらないまま思い切って三人に声をかけた。
「こんばんは。お久しぶりです!」
ギキとツバキはきょとんとしてこちらを見た。忘れられたのかな?そう思うとまたドキドキしてきた。
「こんばんはタナさん」
聞き覚えのある声。声を発したのはエーラだった。
やった!覚えてくれてたんだ!心の中でガッツポーズをした。
ギキとツバキも、あー、この前会った人だと気づいたらしい。
こんばんは、と陽気なギキが、
こんばんは、と控えめなツバキが挨拶をくれた。
存在を思い出してもらったところで、僕も話の輪の中に入るべく気持ちを入れた。
話題は最新のアバターから興味のあるワールドの話などだった。ギキが明るい声色で次々と話をし、ツバキは時折相づちを打っていた。僕も負けじと話を合間に挟んだ。それでもすぐにギキに話題を持って行かれ、話を聞くのに精一杯になってきた。エーラは意見を求められたときだけ少し喋り、また聞き役に回っていった。
僕とエーラが喋ることはなかったが、お互いに視線を交わし合った。
視線を交わすというコミュニケーションによって僕はエーラに惹かれていったのだ。