医療のハードルが下がった世界の実現を目指す
㈱VR Healthcareの挑戦
毎週水曜日と木曜日の22時、VRChatにて様々な悩みを持った方や医療に関する相談をしたい方、そして医療従事者の方が集まる集会があります。
それがVRC医療相談集会です。この集会ではその名の通り医療に関する相談を現役医師の方々に、なんと無料ですることができます。医療相談と聞くと少し敷居の高さを感じる方もいるかもしれません。しかしこの集会では相談を目的とした方以外にも様々な方が遊びにきている集会でもあるため、とてもフレンドリーで明るい雰囲気で、現実の病院にあるような緊張感のあるものでは全くないため気軽に相談することができます。また、相談時には個室もあるため他の人に聞かれたくない相談もすることが可能です。
そんなVRC医療相談集会を運営しているのは現役医師のohanashiさんdoracyanさんOyasumiさんが立ち上げた株式会社VR Healthcareです。今回はohanashiさんとOyasumiさんに集会についてやVR Healthcareとして行っていく新たなサービスについてお話を伺いました。
目次
VRC医療相談集会で見えてきたVRの大きなメリット
この集会が行われているVRChatはバーチャルリアリティ(VR)空間内でコミュニケーションを楽しむためのオンラインプラットフォームです。ユーザーは自分の好きなアバターにて仮想空間内での他ユーザーとの交流や空間の探索を楽しむことができます。ユーザーはパソコンのモニターを見ながら自分のアバターを操作することもできますが、モニターの代わりにVRゴーグルを使って楽しむこともできます。
そんなVRChatでは「集会」と言われる、特定のテーマに基づいてそのテーマに興味のあるユーザーが一つの空間に集まるイベントがユーザーの有志で毎日行われています。VRC医療相談集会はそんな様々ある集会の中でも人気の集会の一つであり、最近は大型のコラボレーションイベントが行われたりと話題の集会です。
――まず初めにVRC医療相談集会について、最近vketとのコラボイベントなども含め注目度が高くなっていると思いますが、続けられている中での感触や気づきを教えていただけますか?
Oyasumi:集会の中での相談はメンタルに関するものが多くて、6、7割以上がメンタルの相談です。これはVRChatで医療相談をやることの特徴だと思っていまして、なかなか家から出れない方でオンライン相談なども緊張してしまう方であっても、VRChatでアバター同士であれば割と緊張しなくて喋れるという話も聞くので、そこがメンタルに関する相談へのハードルを下げているのだと思います。
相談内容も対人面で困難を抱えている方や、引きこもりの方からの相談が多いことや、中にはVRChat内での人間関係の相談があったりと、そういったところが普段リアルで行っているものとは違い、興味深いなと思っています。
――確かにリアルだとメンタルの相談は少しハードル高く感じるところがありますよね。その点アバター同士でなら話しやすいのはわかる気がします。ohanashiさんはいかがですか?
ohanashi:集会を始めてちょうど一年ぐらいになります。初期は参加者が少ない日もありましたが、昨年の10月頃からは安定して人が来てくれるようになりました。口コミで来てくださる方が増えているということもあり、ご好評頂いているのかな、と思っています。Oyasumi先生がおっしゃった通り、精神科的なメンタルの相談についてはこの集会ならではのメリットを感じていますし、整形外科に関連する相談でも、ご家族の相談っていうのに乗れるっていうのが大きいです。病院だとどうしても本人が行かないと相談に乗ってもらえないですし、セカンドオピニオンとかも基本的には本人という話なんですが、「実は遠くに住んでるお父さんがなんか最近ちょっと癌で手術するみたいなんですけど」とか、「最近、父親の腰痛がひどいんですけど」といった家族の相談に乗れるっていうのも結構いい点なのかなと思っています。
あとは複数人で相談対応できるので、例えば私と行政関係の助成金に詳しい保健師の方に一緒に入ってもらって、相談内容に合わせてどういった制度が使えるかといった、病気だけに止まらない相談やアドバイスができるというところが非常にいいところだなと思っています。現実世界だと様々な専門の人が集まることがないので、物理的な障壁が取り払われるので人が集まりやすいというVR空間ならではのメリットだと思います。
ーー現実世界だと、医療相談の集まりなどは自治会館等で行われているのでしょうか?
ohanashi:例えば、がん患者の家族の方が集まって話し合いましょうよとか、大切なひとが亡くなられた方が集まって助け合いましょうといったものはあるのですが、そういうところに居るのは、保健師さん(※病気やけがの予防を図る役割)と心理士さんとぐらいだと思います。VRC医療相談のように精神科医がいて、泌尿器科医がいて整形外科医がいて、それ以外にも色々な医療従事者が集まれるのは、現実の世界ではほぼないですね。
病院内でも、たとえば総合病院だったら、同じ建物内には様々な専門の先生がいますけど、同時に集まって相談に乗ることはほぼ不可能ですね。なので、そこはVRのめちゃくちゃいいところなんじゃないかなと思っています。
ーーVRを活用することによって相談に来る側だけではなく、先生方の体制にも非常にメリットがあるというのはすごく魅力的ですね。
ohanashi:総合病院だったら、眼科整形、外科、精神科と色々あるわけですけど、例えば精神科を予約して受診した時に、「実は腰痛いんですよね」みたいな相談すると、「それは整形外科になるので整形外科の先生にお手紙書いて置くのでまた整形外科の予約を取ってくださいね。」となるのでそこから受診まで時間がかかってしまうのですが、ここだったらたまたまその先生がいてくれれば、そのまま相談をしていただけるので良いですね。
もちろん相談であって、診断ではないので治療や処方とかはできないのですが、一般論としてこういう症状だったら、こういう病気があるかもしれませんねというのをすぐにお伝えできるので、そういう意味では各科間のハードルがものすごく低いというのは非常にいいところかなと思います。
メタバースこころの相談所でこのメリットを広く届けたい
VRC医療相談集会を運営しているVR Healthcareは”Beyond the medical realities”という言葉をモットーに、テクノロジーを使って医療のハードルを下げたいという思いの元事業を展開されている企業です。VR Healthcareでは今年の7月から新たに「メタバースこころの相談所」というサービスをスタートしました。
この「メタバースこころの相談所」ではVRChatではなく、より手軽にスマートフォンや一般的なスペックのパソコンでの操作できる株式会社HIKKYによるVRプラットフォーム【VketCloud】を利用しアバターを用いたカウンセリングを実施されています。
ーーVRHealthCareさんは7月3日から「メタバースこころの相談所」という新しいサービスをスタートされていらっしゃいますが、こちらのサービスを始めるに至った背景を教えてください
Oyasumi:VRChatで医療相談をしている中で、VRならではの匿名性であったり、気軽さのところ、アバターを通して話すことでより自分のことを開示しやすくなるというところを感じてました。一方でオンラインカウンセリングのサービスは世の中色々とあるのですが、VRを使ったカウンセリングは、まだまだ広がっていない状況です。
その中でVRを活用したカウンセリングがどういった人たちに届けばいいのだろうと考えていました。一つはインフルエンサーの方だったり、有名人といった匿名性が重要になる方々に対してVRでのカウンセリングが役立つと考えています。あとは私自身が産業医もやっているのですが、産業医への相談も皆さんどうしても周りの目であったり、人事からの評価があるといったことを気にされて、やはり足を踏み入れづらいという中で産業医面談のハードルを下げることができると考えています。例えば企業に導入してもらったら気軽にVR上で相談に来てもらって、アドバイスだったりとか必要な人にはカウンセリングを提供していくというようなこともできるかなっていうことで始めました。
ーーVRHealthCareさんはLINEで医療相談を受けられるサービスも提供されていますが、通話アプリを通じたオンライン医療相談と比較して、「メタバースこころの相談所」にてアバターを通してコミュニケーションすることでのメリットってどういったところにあると思いますか?
Oyasumi:オンライン相談とアバターを通しての比較だと、どちらも良さもあると思います。オンラインであれば表情が見えたりといったところは良い点だと思うのですが、逆にその中で緊張感を感じてしまったりとか、自分の顔を出したくない人にはやっぱり不向きだなという面もあります。その点、アバターだと自分の好きな姿になってもらえる楽しさもあったり、対峙しやすいというところもあったりといったところで良さがあるのかなと思います。
あとは、LINEでのテキストカウンセリングでは、どうしても文書を書くの苦手とか、テキストでは自分の思いを伝えるにも限界があるので、そういったところでアバターを通じた会話のメリットは感じています。
ohanashi:精神科のカウンセリングに限らないことだと思うのですが、どうしても医者が白衣を着てたりとか、病院の背景で写っていたりすると、知らず知らずのうちに患者・医者っていう関係ができてしまうのですが、VR空間でアバターを介する事で、より対等にやり取りができるっていうところがあると思います。病院の診察とか行くと如実に感じると思いますが、超アウェイだと思うんですよ。自分の知らない閉鎖空間に先生がいて、看護師さんも居て、自分に味方は誰もいないっていうアウェイ戦。それがVR空間でアバターを介することで中立国で試合してるような感じにはなりますし、医者っていうだけで抵抗感ある所がだいぶ解消されて、友達と話す時とまではいかないですが気軽に相談してるような感じで、より素の自分が出せるっていうのはあると思います。
利用のハードルを下げ、広く届けていく
ーーVket Cloudは現状、VRゴーグルへの対応はまだされてないので、スマホやPCのモニターの中でアバター同士でコミュニケーションをとるという形になるかと思いますが、VRゴーグルを使ったアバターコミュニケーションと使わないアバターコミュニケーションってどういった違いがあると思いますか?
Oyasumi:やっぱり没入感が違いますし、モニターだとそこにアバターがいるっていう感覚が薄いので、そのあたりはVRChatで相談を受けていた時とはまた別なんだなと感じています。
ーーやはり没入感のところで、カウンセリングをされたりする時に、影響してくるものなのでしょうか?
Oyasumi:どうしても自己開示のしやすさとかには、少し影響を与えるとは思っていますね。
ohanashi:後はVRゴーグルを着用してでの相談については、相談者さんの手とかも動いたりするので、普通のオンラインの情報よりも得られる情報は多いです。あとは仕草の部分でもリアルでも落ち着きない方だとVRでも少し落ち着きがなかったりする方もいるので、そういった部分で電話相談やオンラインでパソコンの画面で見る面談よりも得られる情報っていうのは多いですね。
じゃあなぜVket Cloudを使ってるかで言うと、スマホで使えるっていうのは結構大事だなと思っています。医療へのアクセスのハードルを下げたくてやっているのに、VRゴーグルを持ってなかったらアクセスできないとなってしまうと意味がない。これがもっとVRゴーグルが普及してる世界だったらいいんですが、今はまだみんな持ってるスマホでアクセスできるというのは大事な条件かなと思っています。
やりたいことはテクノロジーで医療のハードルを
下げること
ーー最後に今後、この「メタバースこころの相談所」はじめVRHealthCareさんとして、今後実現していきたいことをお伝えいただけますでしょうか?
ohanashi:簡単に言うと、我々はやっぱりテクノロジーを使って医療のハードルを下げたいっていうところが根本にあります。最近話題の生成AIなども、相性がいいところだと思うので、取り入れて行きたいなと思っていて、LINE医療相談ではその活用を考えていきたいです。今のカウンセリングは、多い方でも週1回で、2週間に1回か1か月に1回とかされているのですけれど、その間のフォローってやっぱり難しいですよね。でもOyasumi先生が24時間つきっきりで面倒を見てあげれるかっていうとそれは無理な話です。そこで、いつでも気軽にやり取りが可能なAIを用意しておいて相談のハードルを下げるとともに、患者とAIのやり取りの情報をカウンセリングに活かすといったものを考えています。
他にはメンタルに関して言うと、学校などのカウンセリングっていうところに入っていきたいと考えています。学校でしたり、芸能事務所のような、声上げるのに抵抗がある所に対して、匿名でかつそのスマホで気軽に相談ができるっていう輪を広げていきたいなと思っています。
ーーお話を伺う中で、皆さんが「医療のハードルを下げる」という目標を本気で実現しようとされていること、そして実際に活動されたからこそ見えているVRの活用可能性を私も感じることができました。ohanashiさん、Oyasumiさん、ありがとうございました。
「メタバースこころの相談所」は個人向けにもサービス開始されました。興味のある方はVR HealthcareのWebサイト、「お問い合わせ」よりお問い合わせください。
VRHealthcare – VR Healthcare (vr-healthcare.net)
記事:maropi