青色の向こう #8(メタバース連載小説)
葵シュセツ
『青色へ』
「お砂糖になったことは誰にも話さないでね」
エーラはキリッとした言い口で言ってきた。
「それはかまわないけど、ギキやツバキにも内緒なの?」
「うん、内緒」
そう言ったエーラは子どもっぽく笑った。初めてそんな表情を見た。
なぜ内緒なのか理由はわからなかったし、尋ねもしなかった。エーラとお砂糖になれたことだけで十分満足だった。これからは好きなだけエーラといられる。そう思うと何だかニヤけてきた。
「明日も会えるよね?」
エーラの問いかけにハッと我に返った。
「明日はバイトだからログインの時間が遅くなると思う。だけどTMRWには入れるよ」
「そう。バイトなんだ・・・。それでも会えるわよね?」
「あ、うん。会えると思うよ」
念を押して聞かれ、会う約束ができたのでエーラは安心したようだった。念を押されなくても会いに行くのになあと僕は思った。
「もう遅くなったわ。今日は休みましょう」
「うん、そうだね。お休みなさい」
「また明日。お休みなさい」
今夜はここで二人ともログアウトした。
今日は何て充実した日だったんだ!僕は舞い上がる気分だった。エーラとお砂糖になれた。これって両思いだよな?エーラも僕のことを好きって事だよな?ニヤニヤが止まらなかった。幸せな気持ちのまま一人眠りについた。
朝、目を覚ましても昨日のことが夢だったんじゃないかと思えた。ぼーっとしていると昨日のことがはっきりと思い出される。僕は気分良く大学へ向かった。
この日は大学を出てバイト先に向かった。バイトが午後10時に終わったら、急いで家に帰った。晩ご飯をかき込んでさっとシャワーを浴びたら、TMRWにログインした。エーラはすでにログインしていた。僕はエーラに会うため、エーラのワールドにジョインした。
「お待たせ」
「バイトお疲れ様」
エーラは待ってくれていた。昨日までと二人きりの意味が違うと思うと妙に照れくさかった。そんな僕とは対照的に、エーラはいつもと変わらない様子に見えた。もっと喜んでくれるかと期待していたので僕は少しがっかりした。
「待ちくたびれるところだったわタナ」
僕の隣に座ってじっとこちらを見ながらエーラは言った。
その距離感と言葉に僕はドキッとした。
「待たせてごめん。急いで帰ってきたつもりだけどやっぱり遅くなっちゃった」
僕だって早く会いたかった。
「バイトの日はいつもこれくらいの時間になるの?」
「だいたいこれくらいかな。もっと遅くなるときもあるけど」
「そうなんだ・・・」
寂しそうにエーラは呟いた。
こんなに会いたがってくれているなんて僕はすごく嬉しくなった。