青色の向こう #10(メタバース連載小説)
葵シュセツ
『赤茶色』
大学が終わる頃には眠気は飛んでいたが少しの疲れがあった。
寝不足かなあと思いつつ家路についた。
今日も午後8時ころ、TMRWにログインした。
エーラはまだいないようだった。
さてどうするかなと思案していると、エーラがログインしてきた。
僕はすぐにエーラのもとへ向かった。
「こんばんはエーラ」
「こんばんはタナ。遅くなってごめんなさい」
「気にしなくていいよ。別に約束してるわけじゃないんだから」
「約束・・・。そうね、そうだったわ」
声のトーンが一段下がった。
何か気に障ることを言ったかなと少し戸惑った。
気にしても仕方ないと思い話を始めた。
フレンドたちの話をし始めたが、どうもエーラの反応が悪い。
時折、そう、と呟くだけであまり話に乗っていないようだった。
どうかしたのか尋ねてみても、何でもないわ、と答えるだけだった。
だんだん空気が重くなってきて僕は耐えられなくなり、エーラに尋ねた。
「何か気に障ること言ったかな。もしそうだったら謝るよ」
「何でもないわ。私が勘違いしてただけみたい」
「何を?」
「わからないならいいわ」
僕は困ってしまった。
エーラの言う勘違いって何だ?気落ちするほど大事なことなのか?考えてみたがわからない。
アバター越しでは伝わらない。
「わからないから聞いてるんだ。僕に悪いところがあったんだろ?」
「・・・タナは約束してないと言ったけど、午後8時にログインして会うことは約束だと思ってた。そう思ってたのは私だけ?二人の時間を作るのが大事じゃないの?」
エーラはやや興奮気味に言った。
「あー・・・。二人の時間は僕にとってもすごく大事だ。TMRWでしか会えないんだからお互いのログイン時間は合わせるべきだよね。ごめんね。」
エーラは黙ったままだ。
「今度から気をつけるよ。いや、約束する。午後8時にはログインするって」
「約束したいほど私は大事に思ってたわ。私だけがそう思ってたのね」
「ごめん。僕も大事に思ってた。エーラがそれほど大事に思ってくれてたことを知らないで軽々しく発言してごめん。」
しばらく間が開いてから、拗ねた子どものようにエーラは言った。
「約束できる?ほんと?」
「約束する。二人の時間を大事にするためにも午後8時に会いに行くって」
「やっとわかってくれた。私たちの約束ね?」
「うん、約束」
「タナならきっとわかってくれると信じてたわ」
今度は甘えるような声でエーラは話しかけてきた。
約束するよ。
こんなに僕のことを想ってくれてるんだ。期待を裏切るわけにはいかない。
エーラからますます目が離せなくなった。